大阪地方裁判所 昭和39年(ワ)83号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔争点〕一、原告は、昭和三八年九月三日訴外山本龍美に対し、本件動産である建設機械を、割賦販売の方法で、代金完済まで所有権を留保する旨の特約を付して、売却したが、山本は代金の完済を怠つた。そこで原告は、現に本件機械を占有する被告に対し、その所有権に基づき引渡しを求めた。
二、被告はこれに対し、昭和三八年一〇月一〇日、山本から当時同人が占有していた本件機械を買い受け、その頃代金も完済して本件機械の引渡しを受けたものであるところ、山本から本件機械を買い受けるに当たり、当時本件機械は山本の所有であると信じて平穏公然にこれを買い受けたものであり、かつ被告において右の如く信ずるにつき何等の過失もなかつたから、民法一九二条により本件機械の所有権を取得した、と主張した。
三、原告は更に、山本と被告の間でなされた売買は公然と行なわれた正常な取引とは考えられないし、又被告は右売買の当時本件機械が原告の所有に属することを知つていたのであり、仮に被告が本件機械が山本の所有であると信じていたとしても、右のように信ずるにつき、被告に過失があつたと述べ、被告の即時取得を否定した。
〔判決理由〕そこで次に被告がその主張の日に本件機械を右山本から買受けてその所有権を取得したか否かについて判断する。
(一) ≪証拠略≫を総合すると、原告から前述の如き約定で本件機械を買受けた前記山本は、その後昭和三八年一〇月当時には未だ原告に対する前記売買代金を完済していなかつたので、本件機械の所有権は前記所有権留保の特約により依然として原告にあつたところ、右山本は同年一〇月一〇日、被告に対し、当時原告から前記売買契約に基き本件機械の引渡を受けてこれを占有していたのを奇貨とし、右原告の所有にかかる本件機械を自己の所有であると称してこれを金三〇〇万円で売却する旨申出をなしたので、被告は右山本の言を信用し、本件機械の所有権は右山本にあると誤信して右同日右山本から本件機械を代金三〇〇万円で買受けてその引渡を受けたことが認められ、≪証拠略≫はいずれもたやすく信用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
(二) ところで被告は前述の如く本件機械を右山本から買受けるに当り、当時本件機械を前記山本の所有であると信じたことにつき何等の過失もなかつたと主張するが、右被告の主張事実に副う≪証拠略≫はたやすく信用できず、他に右被告の主張事実を認め得る証拠はない。却つて≪証拠略≫を総合すると次の如き事実を認めることができる。すなわち、
(1) 原告は本件機械を前述の如く訴外山本龍美に売渡す以前の昭和三八年一月二〇日、訴外山陽菱機株式会社に対し、本件機械とは別の建設機械一台(訴外物件)を代金六四四万四〇二五円とし、契約成立と同時に内金三〇万円を、同年三月末日金二八万五、〇二五円をそれぞれ支払い、残金五八五万九、〇〇〇円は同年四月末日以降同三九年一二月末日まで毎月末日限り金二七万九、〇〇〇円づつ二一回に分割して支払い、なお右建設機械(訴外物件)の所有権は右代金完済まで原告において留保する旨の約定で売渡し、訴外山本龍美は原告に対し、右訴外会社の原告に対する右売買契約上の債務につきその連帯保証をしていたところ、右山本は被告に対しその後同年二月頃、前記山陽菱機株式会社が原告から買受けた前記建設機械(訴外物件)を右訴外会社から買受けたと称し、これを更に被告に売却する旨の申入をしたので、被告はその頃右山本から右建設機械(訴外物件)を代金六〇〇万円で買受け、内金八〇万円は即金で支払い、又内金一二〇万円については被告名義の手形を振出してこれを右山本に渡した外、その余の残金の支払については被告所有の山林等を担保に供して右建設機械の引渡を受け、以後引続き被告において右建設機械(訴外物件)を使用していたこと、
(2) しかるにその後同年夏頃に至り、前記山陽菱機株式会社及びその連帯保証人である山本龍美は、原告に対する前記建設機械(訴外物件)の売買代金の分割金の支払を怠つたばかりでなく、その頃さきに被告に売却した右建設機械(訴外物件)を、暴力団である第三者に二重に売却したため、右第三者が当時被告の占有使用していた右建設機械(訴外物件)を被告の意思に反して他に搬出したこと、(尤も当時被告は右山本が前記建設機械を第三者に二重に売却したことは知らなかつた)
(3) そこで被告は前記山本に対し、右建設機械(訴外物件)の代金として現金及び手形で支払つた合計金二〇〇万円の返還を求める等してその善処方を強く要求していたところ、右山本は昭和三八年一〇月一〇日頃、さきに原告から前述の如き約定で買受けてその引渡を受けていた本件機械を被告方に持参し、被告に対し、「本件機械は原告から代金五五五万余円で買受けたものであるが、その代金は完済している」と称し、本件機械には何等の瑕疵もない旨確約して前記第三者の搬出した建設機械(訴外物件)の代りに本件機械を代金三〇〇万円で買取るよう求めたので、被告は右山本の言を信じて、本件機械を代金三〇〇万円で買受けることとし、内金六〇万円を現金で支払つた外、内金一〇〇万円については、前述の本件機械とは別の建設機械(訴外物件)代金として支払つていた金二〇〇万円の内金一〇〇万円を充当して決済することにし、その余の残金一四〇万円は被告名義の手形で決済することにしてその頃右山本から本件機械の引渡を受けたこと、
(4) ところで被告が右の如き経過の下に本件機械を買受けた当時、被告は、本件機械とは別の前記建設機械(訴外物件)は、当初前記山陽菱機株式会社が原告から代金は約六〇〇万円とし、かつ右代金は分割払いの約定で買受けたものであつて、その後右訴外会社及び訴外会社からこれを買受けたと称する右山本等においていずれもその代金を完済しておらず、多額の未払代金債務を負担していたことを知つていたし、又本件機械は被告が右山本から買受ける直前に、右山本が原告から代金五五五万余円で買受けたものであることも当時山本から告げられて知つていたこと、なお、右山本は当時和歌山県田辺市で衣料品商を営んでいたものであつて、建設機械の販売業を営んではいなかつたこと。
(5) したがつて、被告としては前述の如き経過の下に、建設機械の販売商でもない右山本から本件の如き高価な機械を買受けるに当り、右山本が真実本件機械の代金五五五万余円全額を支払つてその完全な所有権を取得したものであるか否かの点につき、当然強い疑念を抱き得べき状況にあつたところ、右の点の調査については、当時被告において右山本に対し本件機械に関する売買契約書、代金受領証その他の関係書類の呈示を求めるなり、或は原告に右売買契約の内容や代金支払の関係等を問い合わせる等して、簡単に右調査をなし得たのであつて、被告としては右の如き調査をなし、本件機械の所有権の帰属を確かめた上これを買受けるべき注意義務があつたこと、
(6) しかるに被告は、本件機械の所有権の帰属につき右の如き方法による調査を何等することなく、漫然と山本の言のみを信用して本件機械を買受けたこと、
以上の如き事実が認められ、≪証拠略≫はいずれもたやすく信用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
そうだとすれば、被告が右山本から本件機械を買受けるに当り、本件機械の所有権が右山本にあると信じたことにつき過失があつたものといわなければならないから、被告においてその主張の如く民法第一九二条により本件機械の所有権を取得することはできないものといわなければならない。(後藤勇)